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大阪高等裁判所 昭和31年(ネ)886号 判決 1964年7月16日

控訴人(原告) 森田淳一

被控訴人(被告) 元三野郷村農業委員会承継人 八尾市第三農業委員会・国

主文

原判決を左のとおり変更する。

控訴人の請求中、被控訴人農業委員会に対し、買収計画の無効確認を求める部分、並びに、被控訴人国に対し、所有権確認及び農林省名義の所有権取得登記の抹消登記手続を求める部分を棄却する。

控訴人のその余の訴を却下する。

訴訟費用は第一、二審共控訴人の負担とする。

事実

控訴代理人は、「原判決を取消す。被控訴人農業委員会は、控訴人に対し、原判決末尾添付物件表記載の土地についてなされた三野郷村農地委員会の買収計画、その公告、その承認申請、大阪府農地委員会の承認、大阪府知事の買収令書の発行交付の無効なることを確認すべし。被控訴人国は、控訴人に対し、前項掲記の土地についてなされた政府の買収(農林省名義の所有権取得なる行政処分)、と政府売渡(農林省名義を以てする所有権移転なる行政処分)、並びに、大阪府知事が右土地についてなした農林省名義の買収登記売渡登記の各嘱託行為と、これに基いてなされた農林省名義の所有権取得登記、農林省よりの所有権移転登記、はいずれも無効であること、右土地は控訴人の所有に属することを確認し、右各登記の抹消登記手続をなすべし、訴訟費用は第一、二審共被控訴人等の負担とする。」旨の判決、(控訴人は、原審において、本件土地の買収計画及び右買収計画に基く政府の買収の取消、並びに、各被控訴人に対し、右買収の無効及び右買収計画これに関する公告承認買収令書の発行の無効確認を請求したが、当審において、右のとおり、請求の一部減縮並びに拡張をなした。)、を求め、

被控訴人両名訴訟代理人は、「本件控訴を棄却する。控訴人の当審における拡張請求を棄却する。控訴費用は控訴人の負担とする。」旨の判決を求めた。

当事者双方の事実上の陳述並びに証拠の提出援用認否は、左記のとおり付加した外、原判決事実摘示(但し出訴期間についての主張とこれに対する答弁の部分を除く)と同一であるから、ここにこれを引用する。

控訴代理人において、

一、原審の訴訟手続は違法であるから、取消さるべきである。

(一)  本件記録上明らかなとおり、控訴人は、昭和二三年七月本訴を提起し、大阪地方裁判所第二民事部に係属し、審理の階梯としては買収手続の全面的無効の主張という行政訴訟の先決事項に関し弁論及び証拠調の進行あり、昭和二七年末まで同部に係属したところ、同年末、同地方裁判所の裁判官会議において、農地関係行政事件を同庁第三民事部に集中する旨の決議がなされ、包括的割替の名目の下に、本件訴訟の続行期日は追つて指定するとの取扱の下に、休眠状態にあつた。然るところ、翌二八年に入り、同庁第三民事部は突然本件の口頭弁論期日を同年五月一九日と指定し、控訴人に対し、呼出状を送達した。控訴人においては、所管同庁第二民事部より本件の審理を第三民事部へ移付割替する旨の決定通知を受けおらず。よつて、第三民事部の本件弁論期日指定取消の申立をなしたところ、右申立に対し何等の決定がなかつたので、控訴人は、右期日に出頭しなかつたところ、後に至り、当日の口頭弁論調書を査閲するに、第三民事部は、控訴人欠席のまま被控訴人のみの弁論立会の下に、右申立の却下は勿論何等の証拠決定をなさずして、結審しておつたことを発見した。よつて控訴代理人は爾後口頭を以て再三再四弁論の再開を求めたが、同部は、これに応ぜず、昭和三一年六月二九日に至り判決を言渡した。

(二)  以上の次第で本件は、同庁第二民事部に係属審理中のものであつたが、同部の係属を離れ第三民事部に移管するについては適法な移付手続が採られておらず、全く下級裁判所事務処理規則第六条第七条に違背し、第三民事部において審理権がないのに拘らず、しかも、控訴人の期日の取消申立について何等の裁判を下さず、採用決定済の証拠申請に係る証拠調未済のまま、弁論を終結し、再開の申立について何等の措置を採らずして、判決の言渡を故なく著しく遅滞したものであつて、民主国家における訴権の保障を著しく損壊する不当不法の審理である。よつて、控訴人は、原審の訴訟手続は取消を免れず、控訴審においては先決的審判事項として裁判を求める必要上、敢て、原審訴訟手続の取消を求めるものである。

二、本件土地の政府買収は無効であつて、本件買収計画の承認申請も無効であり、本件土地は被控訴人の所有に属するのに政府買収が有効なものとしてさらに政府売渡をなし、大阪府知事は右土地について農林省名義の買収登記売渡登記の各嘱託行為をなし、これに基いて、農林省名義の所有権取得登記、農林省よりの所有権移転登記がなされているが、右はいずれも無効である。よつて、請求の趣旨の表現を補正し、控訴趣旨どおりの判決を求める。

と述べ、

被控訴人両名訴訟代理人は、控訴人の当審における拡張請求はすべて失当であると述べた。

理由

一、原審の訴訟手続が違法であつて、取消さるべきものであるとの控訴人の主張について、

控訴人主張の一の(一)の事実は、本件記録並びに弁論の全趣旨からこれを認めることができる。

しかしながら、下級裁判所事務処理規則第六条及び第七条によると裁判事務の分配は毎年あらかじめ当該裁判所の裁判官会議の議によりこれを定め、特別の事情があるときは、司法年度中においても裁判官会議の議によりこれを変更し得るものであるから、裁判事務処理上の方針により、原審大阪地方裁判所の裁判官会議において、農地関係行政事件を同裁判所第三民事部が担当することとする旨の議決がなされ、本訴訟事件がさきに担当の同裁判所第二民事部から第三民事部に割替えられ、同部裁判長において、その口頭弁論期日を指定し、当事者双方に適法な期日の呼出手続がなされた上、同期日において被控訴人両名訴訟代理人のみ出頭し従前口頭弁論の結果を陳述の後結審し、控訴人からの右期日指定の取消及び弁論の再開の申立につきその裁量によりこれを許さず、判決の言渡がなされたことは相当であつて、控訴人主張の如く右の外右事件の割替の決定通知並びに右各申立につき裁判をなす義務があるものではない。また控訴人が申請し採用された書類の取寄手続も完了していることが記録上明らかであつて、何等違法の点なく、原審判決言渡の遅延は、本訴訟の審理の経過からみて判決の効力を妨げず、原審の訴訟手続の違法を招来するものというを得ず。控訴人の原審訴訟手続の取消を求める申立は採用し難い。

二、被控訴人農業委員会に対し、本件土地についてなされた三野郷村農地委員会の買収計画の公告、及び大阪府農地委員会の承認の無効確認を求める訴が不適法として却下すべきものであり、同村農地委員会の買収計画と、府知事の買収処分(買収令書の交付)が取消なり無効確認の訴の対象とすることができる行政処分であること、及び、被控訴人農業委員会に対し右買収令書の発行交付の無効確認を求める訴が不適法として却下すべきものであること、並びに、右村農地委員会の買収計画その公告府農地委員会の承認府知事の買収処分(買収令書の交付)が何等かしなく適法に行われたものであることについての当裁判所の判断はすべて原審裁判所の判断と同一であるから、ここにこの点についての原判決理由の記載をすべて引用する。

しかして、右事実によると被控訴人農業委員会に対し本件買収計画の無効確認を求める請求は失当として棄却すべきものであることは明らかである。

三、控訴人の被控訴人農業委員会に対し本件買収計画の承認申請の無効確認を求める訴について、

三野郷村農地委員会の本件買収計画の承認申請は、上級行政庁である府農地委員会に対する下級行政庁なる村農地委員会の行為、即ち行政庁相互間の対内的行為であつて、土地所有者なる控訴人の権利義務に直接影響を及ぼす行為ではなく、無効確認の対象となるべき行政処分ということができないから、右訴は不適法として却下すべきものである。

四、控訴人の被控訴人国に対し本件土地の政府買収政府売渡の無効確認を求める訴について、

控訴人は、右村農地委員会の買収計画と府農地委員会の承認の結合により組成される狭義の政府買収、及びこれと府知事の買収令書の発行交付との結合により組成される広義の政府買収なる概念を構成し、これを一個の行政処分として、その無効確認を求め、また、控訴人が、これと併せて無効確認を求めている政府売渡なる概念も、控訴人の右主張に徴すると、政府買収に対応する概念として、売渡手続を構成する右村農地委員会の売渡計画府農地委員会の承認府知事の売渡通知書の発行交付等の結合により組成したものを一個の行政処分と考えこれを政府売渡と称しているものと解せられる。しかしながら、自創法が、右買収計画買収処分(買収令書の交付)或は売渡計画売渡処分(売渡通知書の交付)なる個々の行政処分のほかに、控訴人主張の政府買収政府売渡を独立の行政処分として認めているものと解することができず、また買収手続売渡手続により権利を害せられた者は、右買収計画買収処分或は売渡計画売渡処分等の個々の行政処分を訴訟の対象として救済を受けることができるから、この外にことさら政府買収政府売渡なる概念を構成して訴訟の対象とする必要もなければ利益もない。右訴は、無効確認訴訟の対象とならないものを対象としたものであるから、不適法として却下すべきものである。

五、控訴人の被控訴人国に対し、府知事が本件土地につきなした買収登記と売渡登記の各嘱託行為及びこれに基いてなされた農林省名義の所有権取得登記と農林省よりの所有権移転登記の無効確認を求める訴について、

右各登記の嘱託行為は、行政作用ではあるけれども、附随的なしかも、国の登記嘱託機関としての府知事から登記官吏に対してなされる行政庁間の内部的意思表示にすぎず、独立して、国民の権利義務に直接影響を及ぼすものではないから、無効確認の訴の対象となる行政処分と解することはできない。

つぎに、右嘱託行為に基いてなされた農林省名義の所有権取得登記及び農林省よりの所有権移転登記は、本件土地に関する権利または法律関係そのものではなく、また、直接国民に権利を与え義務を負わしめる効力を及ぼすものではないから行政処分ではなく、無効確認訴訟の対象となり得ない。

従つて、右各訴は不適法として却下すべきものである。

六、控訴人の被控訴人国に対し、本件土地についてなされた農林省よりの所有権移転登記の抹消登記手続を求める訴について、

被控訴人国は、右抹消登記の登記義務者ではなく、右訴訟について被告たる適格を欠ぐから、右訴は不適法として却下すべきものである。

七、控訴人の被控訴人国に対し本件土地が控訴人の所有に属することの確認請求、及び農林省名義の所有権取得登記の抹消登記手続を求める訴について、

右各請求は、本件土地の買収処分(買収令書の交付)が無効であることを前提とするものであるところ、本件土地についてなされた前記村農地委員会の買収計画その公告府農地委員会の承認府知事の買収処分(買収令書の交付)が何等かしなく適法に行われたものであることさきに引用の原判決認定のとおりであるから、その前提を欠ぎ、失当として棄却すべきものである。

八、よつて、控訴人の本訴請求中、被控訴人農業委員会に対し買収計画の無効確認を求める部分、並びに、被控訴人国に対し所有権確認及び農林省名義の所有権取得登記の抹消登記手続を求める部分は、失当としてこれを棄却し、控訴人のその余の訴は不適法として却下すべきであつて、原判決は一部相違するから右のとおりこれを変更し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第九六条第八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 小野田常太郎 柴山利彦 下出義明)

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